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2010/8/22
二ヶ月ほど日本を留守にしてました。今回の旅では、行く先々で、これまでにはない大きな変動が起きつつあると感じました。今回はちょっとそんなお話を。
例えば、旅のやり方。ロンドンからミュンヘン往復、往復とも空港は、セルフ・チェックインです。単に席を決めて搭乗券がマシンから出てくるというだけじゃありません。ミュンヘンでは、スーツケースも自分でタグを付けて、そのまま自動で預けちゃうというやり方。これは初めての経験でビックリ。EU域内は、国内線になりつつある。強くそう感じました。
amazonのKindleをはじめて旅に携行しました。これで週刊誌定期購読してます。毎週金曜日に新しい号がKindleに入る。日本→英国→ドイツ。すべて自動で、それぞれの地域で、ちゃんと毎週新しい号が届きました。そうなる、ということは知ってました。でも実際にこれを体験すると、ちょっと驚きます。国境が消えている。もう、どこにいようと、一緒です。
ある仕事を仕上げるのに、どうしても確認必要な事柄があったので、Kindleで関連資料(書籍)を買いました。3百ページ弱の単行本が、20秒も掛からずに、Kindleに入ります。「購入」ボタン押せば、それで完了。ミュンヘンでしたけれど、これまた、どこにいても、一緒。話としては、理解してました、この小さな道具を購入した時から。でも、実際に体験してみると、ほんとうに感心してしまいます。そして、ものの考え方が根本から変わったと自分自身感じます。国境というよりも、私の心の中にある「場所の概念」が、大きく変わり始めている。
ロンドンのチャリングクロスといえば、本屋さんの街、です。あと数年すると、「でした」と書くことになるかもしれないと、この夏歩いてそう思いました。Foylesは健在です。ロンドン最大の書店です、たぶん、今も。これがなくなったら、チャリングクロスも終わりです。この書店には思い出が山ほどあります。Foylesの向かいは、アメリカ系のBorders書店だったはずが、これが消えてました。店内にカフェもあればCDショップに文具コーナーまである大きな店だったに。今ビルは空っぽ。去年の暮の閉店だったようです。増殖する一方だったWaterstone'sも、かつての勢いは、もうありません。
ところで今回は、どこの滞在先でも、イスラム圏特に湾岸諸国からの避暑客と出会いました。アッパー・ミドル層という感じ。これが思いのほか愛想がいい。女性はヴェールを被ってますけれど、はにかみながらも、言葉を交わすこと自体は平気な女性が少なくないと感じました。若い女の子は、きれいな人が多くて。美しい褐色の肌と、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。英語ベラベラだったりします。そういう階層だから避暑に来れる。そんな感じです。ひとりの子なんて、エア・マック抱えてました。頭にはイスラームのヴェールを被って、胸にはエア・マック。まるでアップルの広告に出てきそうな雰囲気で、クウェートから来たって言ってました。

左の彼女は左手にケータイをもち、中央の彼女はごっつい一眼デジカメをぶら下げてます。
一番保守的な黒づくめの女性たちでも、若い女性は肩にシャネルバッグ、黒衣の下はオシャレなジーンズ、足元はナイキのスニーカーという姿が珍しくない。そして、手にはケータイ。こればかりは、日本の若い子たちと一緒。「ケータイ命」って感じです。さすがに覗いてみませんでしたけれど、メールはアラビア文字なんでしょうね。
一夫多妻が珍しくないためでしょうか、おじさん一人に、奥さんらしき女性が2〜3人、それに子どもがぞろぞろ。ほとんどが、そのパターンです。間近で見ると、「ハーレム」なんて感じではなく、お父さんは大変そうです。山のようにブランド品、買わされて、袋を持たされてます。このお父さんたちも、意外と気軽にお話を交わすことの出来る人達です。

右端がお父さん、立派な男です。5才くらいの男の子と、乳母車の赤ちゃん、お父さんが看てました。買い物した袋も彼の担当。三人の女性のうち、右端の彼女はこんな場所でもケータイに夢中。ミュンヘン一番の名所マリエンプラッツにて。
長くなってきたので、最後にひとつ。有名観光地たとえばミュンヘンのマリエンプラッツなんかは、世界中からの観光客で溢れてますけれど、日本の方には、少ししか出会いませんでした。出会う東洋人というか東アジア系は、これはもう、圧倒的に中国人の皆様です。ロンドンなんて、この傾向に、二重三重に輪がかかってます。そのおかげで、欧州の方々も、中国人と日本人の違いが雰囲気で分かる人が増えてきたみたいで、結構いろいろな場所で「日本の方ですか」と言われました。「中国の方ですか」と言われなくなりました。面白いので「どうして日本人だって分かるんですか?」と聞いてみると、「雰囲気が違いますよね。分かりますよ。」というお答えです。
日本とヨーロッパの間を往復するようになって、もう長い年月が経ちました。でも、今回の旅ほど、大きな変化があちこちで起きつつあると感じたことは、これまでありませんでした。ここまで書いてきた例は、そのごくごく一部、表面的なことに過ぎません。大河の奥底を静かに流れる、時代の大きな変化という暗流が、ほんのわずかに川面に姿を現している、その泡の姿を見ているにすぎません。
私は本来グータラで、机に向かって本を読んでいるのが何よりの楽しみ、というタイプです。あれこれ想像の翼を広げて、空想に耽る。それが楽しくてしょうがない。古い銀器はそんな私にピッタリです。銀器が語る遠い昔の物語に、静かに耳を傾ける。それが楽しい。スポーツも好きじゃないし。とにかくグズで、なかなか動かない。なんたって「三年寝太郎」が理想ですから。「旅好き」なんて、とんでもない。なのになぜか、子供の頃から遠距離の旅が日常でした。宿命なのだと思います。秋にはまた、長い旅路が待ってます。そして、たぶん、冬にも。
きょうのお話は、ここまで。
面白いお話、出てこい。
もっと早く、もっとたくさん。
2010/8/22

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『アンティークシルバー物語』大原千晴
主婦の友社 定価 \2,100-
イラスト:宇野亞喜良、写真:澤崎信孝
ここには、18人の実在の人物たちの、様々な人生の断面が描かれています。この18人を通して、銀器と食卓の歴史を語る。とてもユニークな一冊です。
本書の大きな魅力は、宇野亞喜良さんの素晴らしいイラストレーションにあります。18枚の肖像画と表紙の帯そしてカトリーヌ・ド・メディシスの1564年の宴席をイメージとして描いて頂いたものが1枚で、計20枚。
私の書いた人物の物語を読んで、宇野亞喜良さんの絵を目にすると、そこに人物の息遣いが聞こえてくるほどです。銀器をとおして過ぎ去った世界に遊んでみる。ひとときの夢をお楽しみ下さい。

2009/11/23

■講座のご案内
2010年も、様々な場所で少しずつ異なるテーマでお話させて頂く機会があります。また、4月号から新たに
大修館書店発行の月刊『英語教育』での連載が2年目に入りました。欧州の食世界をさまざまな視点から読み解きます。ぜひ、ご一読を。
というわけで、エッセイもカルチャーでのお話も、
「ヨーロッパの食卓の歴史的な変遷を、これまでにない視点から、探訪する。」が基本です。
歴史の不思議な糸で結ばれた、様々な出来事の連なりをたぐり寄せてみる。そんな連なりの中から、食卓という世界を通して見えてくる、人々の社会と暮らしの面白さ。これについてお話してみたい。常にそう考えています。
詳しくは→こちらへ。
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