中世の終わりに欧州貴族の礼拝堂で使われた「時祷書(じとうしょ)」。聖書からの抜粋や賛美歌そして暦(こよみ)を主たる内容としています。中でも、特にその美しさで名高いのがフランス王弟であり、希代の美術収集家として知られるベリー公の『いとも美しき時祷書』です。
その絵暦は、一月の豪華な宮廷宴席を筆頭に、夏は刈り入れ、秋は農夫が木の実一杯の森に豚を連れて行く場面、冬は一面の雪景色の中、家畜小屋で生まれたばかりの羊の子の世話をする様子へと続きます。いわば「素朴な農事絵暦」という一面も。
今回は、この絵暦を手掛かりとして、中世末期の領主の食卓の面白さ、その食卓を支えた農民の様々な農事、そして暖炉の脇で語られた農民説話の世界に皆様をご案内致します。
小麦、大麦、羊に豚、栗にくるみ、ブドウの取り入れ、ワイン醸造、ビール造り、薬草園等々、中世末期の食を訪ねることで、欧州食文化の原点を探る内容となります。
楽しみのお料理は、特に野菜に強いこだわりを持つことで知られる『ラ・ビュット・ボワゼ』の森重正浩シェフが腕を振るいます。
これまでにない斬新な視点から、ヨーロッパを中心に、様々な「食の集い」の歴史をたどります。もっと深く、そして、もっと楽しく。
新しい歴史学の成果を盛り込み、宴席をいろどる多様な文化をも視野に入れながら、
「人々が集う場」=「人間社会」
としての宴席の面白さをご紹介致します。
料理研究家やテーブルコーディネイトを仕事となさるプロから、より深く食の歴史を知りたいというグルメの皆様まで、十分に納得いただけるディープな内容を目指します。
毎回、会場やお料理に工夫を凝らし、少しでも、話の内容につながりのある楽しさが生まれるようにと、心がけています。
いにしえの時代の雰囲気が目に浮かび、耳をすませば宴のさざめきが聞こえてくる。そんなひと時を皆様にお楽しみ頂きたいと思っています。
■シリーズこれまでの歩み■
■第8回:2008年6月1日
「17世紀オランダ絵画に見る食の光景」
17世紀前半、世界を舞台にした交易で黄金期を迎えたオランダ。異郷から届く様々な果物や木の実、そしてワイン。豊かな食肉加工品、チーズ、魚の干物や塩漬け。山積みの食材でにぎわう市場。こうした食に関する光景を描いた絵画が当時のオランダに数多く登場します。

時にこれらの絵画には、深い寓意がこめられています。その意味するところを読み解くのも面白いこと。そんな絵画の「深読み」の世界をご紹介。
そして絵画に描かれた食器と食材の背景には、どのような歴史的な事実が隠されているのか。当時オランダのニシン漁が食はもちろん、経済や政治にまで影響を及ぼす程の大きな存在であったことなども詳しくお話しました。
会場は今回も、ミシュラン一つ星のレストラン「ブノワ」。パスカレッリ・シェフのお料理、お世辞抜きでイマジネーション溢れる素晴らしいものでした。面倒な素材指定をこなして頂いた上、メリハリのある献立で、文句なし。
ご参加の皆様から「次回はいつですか。楽しみにしています。」という声を多く頂きました。
次回の趣向をどうぞ、お楽しみに!
■特別編:2008年1月25日
バレンタインデイ前特別編
「姫さまたちの愛したチョコレート」

今回のテーマはチョコレート。従って会場はいつもと違って、おいしいケーキ屋さん。話題のパティシエ金子義明さんのお店、
自由が丘「パリ・セヴィーユ」です。
当日は七種類ものチョコレートケーキを出して頂いて、チョコレート中毒患者の私も、もうニコニコ。帰りにもしっかり幾つかケーキを買わせて頂きました。金子さん、素材にこだわりながら、発想が柔軟でいらして、それがオイシサにつながっている、と感じました。
さて、今回のお話の内容は、メゾアメリカのオルメカ文明始まるチョコレートの長い歴史を、様々なエピソードをつなげることで、お話しまた。皆様、とても楽しんで頂いたご様子でした。
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カカオの香り一杯のチョコレートには、
思いもかけない歴史が隠されています。
はるか昔からメキシコはマヤやアズテク、それに先立つ文明のもとで、泡立つ飲み物として知られ、スペイン人がこれを欧州にもたらし、やがてヨーロッパ全域へと広がっていきます。
フィレンツェでは既にソルベに使われ、フランス王ルイ14世のヴェルサイユでは、王妃の心をとろけさせ、貴重な薬として、時に媚薬として、そして食べるチョコレートとして、新しい食文化といえる存在にまで昇華していく道筋には、どんな秘密が隠されているのでしょうか。
カカオとチョコと砂糖とミルク。大西洋とカリブ海を結ぶグローバルな展開。チョコレートの歴史をめぐる壮大な世界。我々に身近な食材をフェアトレードという問題にまで視点を広げて、お話しました。
■第7回:2007年11月25日
「カトリーヌ・ド・メディシスの食宴」

会場は再び青山「ブノワ」(フランス料理)
今回のテーマは16世紀の中頃からフランス宮廷文化と政治に大きな足跡を残したカトリーヌ・ド・メディシスの宴席です。戦乱続く世界に生きた波瀾万丈の人生が生み出したドラマ性にあふれる宴席とその背景をたどりました。
なぜ彼女の宴席は後世に語り伝えられるほどのものであったのか。銀のフォークや様々なお菓子をフィレンツェからフランス宮廷にもたらした、というのは果たして事実だったのか。宮廷バレエの源を生み出した妃は、なぜ宴席に驚くほどのこだわりを持ち続けたのだろうか。
「宴席のあり方に彼女の人生が投影されている」という思いもかけない発見。一般に流布するイメージを打ち破る、新しいカトリーヌ像の一端を皆様にお届けできたのではないかと思います。
ちなみに、会場の青山「ブノワ」は、マッシモシェフのガンバリもあってか、めでたく「一つ星」の一軒に選定されて、お店のスタッフの皆様はお喜びでいらっしゃいました。
■第6回:2007年5月20日
「イザベラ・デステの食宴」

マントヴァ侯妃イザベラ・デステ(1474-1539)は、洗練された趣味の力で自分の小さな宮廷を、当時のイタリアでも最もオシャレな宮廷に育て上げます。その華やかな暮らしぶりをご紹介しながら、当時の宮廷料理の世界をご紹介してみました。
それは騎士の御前槍試合からダンス、軽い演劇、庭での宴席そして山ほどの砂糖菓子、時には目を見張るような様々な出し物が繰り広げられるワンダー大宴会。今の我々の貧しい想像力ではちょっと思い及ばないほどの凄い世界。なぜ彼らは、そこまで宴席にこだわったのか。それを何とか絵と言葉で皆様にお伝えしてみました。
今回の会場は前回に引き続いて青山「ブノワ」。イタリア出身でアラン・デュカスの流れをくむパスカレッリシェフが、当時の材料を用いて歴史的な香りのする料理をご用意下さいました。
前菜に始まり全5皿のお料理と「エステ家風」と銘打ったデザートまで。私の面倒な素材指定に応てえ下さったシェフのイマジネーションの豊かさが感じられる、ほんとうに、おいしいお料理でした。お陰様で皆様大満足。私も主催者一同もひと安心でした。
■第5回:2006年11月
「英雄シーザーの食宴」

古代ローマの英雄シーザー。果たして当時の宴席はどんな雰囲気で開かれていたものか。臥台に横臥し、蜂蜜入りのワインを水割りで飲み、魚醤を主要な調味料とし、帝国の海運と道路網を駆使して運ばれてきた様々な食材を楽しむ。
ポンペイ発掘の美しい絵をご覧頂きなら、青山「ブノワ」のパスカレッリ・シェフが工夫を凝らした料理を皆様に堪能して頂きました。皆様気分は一瞬ローマに遊ぶ、というわけで、充分お楽しみ頂けたようです。
■第4回: 2006年4月
「アフタヌーンティー」

■第1回:古代ギリシアとローマの宴席

古代は今につながっている。色彩も見事な宴席関連の壁画やモザイクを多数ご紹介。当時の食材、料理、宴席、マナー、交易路等々、宴席が準備されるまでの過程に重点を置きながら、当時の宴席の様子お話してみました。
■第2回:
イタリアとフランスのルネサンス期の宴席

イタリアの小宮廷、フランスはカトリーヌ・ド・メディシスの宮廷、それに同時期の英国宮廷の宴席について、いずれも個性的で華やかな、騎士中心の一大イヴェントについてお話ししました。後のオペラやバレエや演劇誕生の源となった、その一番の原点にある宮廷宴席の様子を、沢山の写真と絵画で実感して頂きました。また、それを通じて、宴席が「単に贅沢な食事をする場」ではなかったということをご紹介しました。
■第3回:
宴席の裏方達―英国マナーハウスの世界

マナーハウスの華麗な宴席を影で支えた裏方に光を当てることで、「召使い達の視点から見た宴席」をご紹介してみました。誰がどこで、どのようにして料理を作り、食器はどのようにして洗ったのか。誰がどのように皿を並べ、山のように使われたクロス類の洗濯はどうしたのか。また、マナーハウスが使用する野菜や果物を栽培し、酒造りから乳製品造りに至るまで、かなりの水準で自給自足を計っていた様子についても、具体的な資料に基づいて詳しくお話ししてみました。
以上が、2008年「ヨーロッパの食卓史」で実際にお話した概要です。そして、その基本には、次のような考え方があります。次回の受講を お考えの皆様のために、参考までに、今年の講座の紹介文をそのまま掲示しておきます。
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テーブルセッティングから料理、調理法、食材、マナー、食器、インテリア、衣服、調度、宴席での出し物、さらには、食卓を囲む人々の思いに至るまで。およそ食卓をめぐるあらゆる要素について、新しい歴史学の成果をふんだんに取り入れて、その具体的な姿をたどります。
例えばアフタヌーンティー。どうセッティングするかではなく、なぜヴィクトリア時代のはじめにこうした習慣が始まったのか、奥深い背景に注目することで、大きく変わり始めた女性たちの役割の変化が浮かび上がってきます。
中世農民の祭りの食事、近世初頭の都市住民のパーティー、そして下積みの労働者たちの食事などなど、様々な「食」のあり方を見ることで、その先に広がる人間の暮らしの多様な姿を探ります。
連続3回の講座で、このすべてを語ることはとても無理です。こうした対象の中から毎回、食卓史の変遷で大切と思われる一つか二つの対象に絞って、これを深く解説していく予定です。
食べる世界を追いかけることで、これを通して当時の世界が見えてくる。そして、その世界を生きていた人間たちの喜びや悲しみが見えてくる。そんな講座にしたいと思っています。
これまでの銀器講座同様、ビジュアル史料を数多く使用する予定です。絵を見て楽しみ、料理の匂いが立ちのぼり、食卓を囲む人間の営みの面白さを知る。これまでにないユニークな講座となるはずです。
どうぞお楽しみに!